皆さんは夜空の星々を見ていて、何か奇妙な体験をしたことはありませんか?例えば、「あれ?あそこに、あんな明るい星があったかな?数ヶ月前に観察したときには見えなかったような・・・」という感じで。そういえば、そこまで注意深く星を見たことがないなぁという方は、以下の別々の日に撮られた2枚の写真をよ~く見比べてみてください。これははくちょう座の首に位置するη(エータ)星からクチバシに位置するアルビレオのあたりを撮影したものです。

別々の日に撮られたはくちょう座の首(η星)からクチバシ(アルビレオ)のあたりの比較.
はくちょう座のη星からアルビレオのあたりの比較写真.

とても多くの星が写っているので、ヒントとして黄色い円を描いています。そのあたりを見比べると、2016年5月には写っていなくて、2016年10月には写っている星があります。さて、この奇妙な星の正体とは一体何なのでしょうか?(どの星か見つけられなかった方は本記事の最後の図をご覧下さい!)

この奇妙な星の名は「はくちょう座χ(カイ)星」と言い(ついアルファベットのエックスと読みたくなるところですが、これはギリシャ文字なので「カイ」と読むのが正解です)、これまでの観測記録によると、暗いときは約14等で息をひそめ、明るいときは3等台にまで明るくなる星なのです。つまり最大で明るさが約2万4千倍も変化します。そのため、はくちょう座の天体写真を撮って、写真と星図を比較しながら星座線を引いてみようとすると、撮影した時期によっては「あれ?χ星が見当たらない」なんて経験をした方もいるのではないでしょうか。

宇宙にはこのように、よ~く観測をすると明るさが変化する星がたくさん存在し、そのような星々を変光星と言います(以前、10月の星空でも触れました)。星によって変光の原因は様々ですが、このはくちょう座χ星は星自身が膨張したり収縮したりすることで明るさが変化する、脈動型変光星として知られています。なお、この星は歴史上、アルゴル(ペルセウス座)やミラ(くじら座)に次いで3番目に変光星として発見された星でもあります。

はくちょう座χ星は約408日の周期で明るさが変化し、2016年は9月中旬に極大を迎える予報となっていました。ただ、極大の明るさや極大日というのは観測をし続けていないとわからないもので、日本変光星研究会の報告 (会誌 No. 286) によれば、今年の極大は9月上旬で明るさは5等台だったようです。ちなみに10月下旬現在では、約6等星なので双眼鏡でもまだ見ることができるでしょう(参考: VSOLJ Light Curve Generator)。これからジワジワと暗くなってくるので、双眼鏡や望遠鏡をお持ちの方はどこまで観測できるのか、チャレンジしてみるのも良いかもしれません(はくちょう座は12月くらいまで見えます)。

変光星の世界は明るさがジワジワと変化するだけなので、とても地味に感じるかもしれませんが、その奇妙な「変化」は私たちに「なぜそんなことが起こるの?」という知的好奇心や想像力を刺激してくれる大変面白い分野です。コツコツと変光星の観測してみると、まるで自分で植えた植物の種の成長を見守るようでもあります。

さて、今回は「世にも奇妙な星」シリーズの第一回目として、はくちょう座χ星の話題を取り上げました。ちょっとマニアックかもしれませんが、「え?そんな変な星がいたんだ!」と、いつもとは違った視点で夜空を眺めるきっかけになれば幸いです。次回もお楽しみに!

はくちょう座χ星の位置.
はくちょう座χ星の位置.
はくちょう座の星図
はくちょう座の星図 (Bright Star Catalogue より作成)