アルゴルの観測・研究

執筆者: K. Nagai

はじめに

変光星の発見の歴史は古代の超新星の発見から始まりました。現在は超新星はGCVSに登録されませんが、今もGCVSの変光星分類には超新星が残っています。超新星(もしかすると新星も含む)を除いた変光星の発見は1596年にドイツのファブリチウスがミラを発見した事に始まります。くじら座に星図にない3等星を発見し2等級まで増光してその後減光して10月には見えなくなりました。超新星と違ったのは13年後に同じ位置にこの星が見えた事です。こうしてファブリチウスは(いわゆる)変光星の最初の発見者になりました。

アルゴルの変光の発見

2つ目に発見された変光星はアルゴルでした。1667年にイタリアのジェミニアーノ・モンタナーリはアルゴルが明るさが変わる星である事を発見しました。実は3千年前の古代エジプト人によってカイロ暦に記録されていたという証拠もありますので、アルゴルの変光の発見は3千年前とも言えます。

ジェミニアーノ・モンタナーリ (画像引用元)

アルゴルの観測とメカニズムの提唱

アルゴルの変光周期は1782年にジョン・グッドリッケの眼視観測によって正しく求まりました。グッドリッケはオランダに生まれましたが生涯のほとんどをイギリスで過ごしました。幼い頃の病気で耳が聞こえませんでした。グッドリッケはワリントン・アカデミーを卒業後に隣人のエドワード・ピゴットと私設天文台で天体観測を始めました。変光星への興味はエドワードが持っていてグッドリッケと観測を始めました。グッドリッケは1782年にアルゴルの変光周期を求めました。彼はこと座β星とケフェウス座δ星の周期性も見出しました。それから4年後の21歳でグッドリッケは肺炎で亡くなりました。

ジョン・グッドリッケ(画像引用元

グッドリッケはアルゴルの変光メカニズムについても説明しています。ひとつは、アルゴルに巨大な黒点があり自転で明るさが変わる。もう一つは、アルゴルの周りを見えない黒い天体が周っていて減光する。という物です。黒い天体の公転の発想は、現在の系外惑星トランジットと似ていますよね。連星が発見されたのは1804年のウィリアム・ハーシェルですので連星発見以前にこのようなアイデアが出ていたのは驚きです。

近代におけるアルゴルの研究

アルゴルが連星で食によって変光している事実を発見したのは、1889年にポツダムのヘルマン・カール・フォーゲルがスペクトル観測によってドップラーシフトを発見し、この連星の視線速度変化から食連星の変光原理を確認しました。全ての変光星の中で最初に変光原理が確認された例です。

ヘルマン・カール・フォーゲル(画像引用元

なおアルゴルまでの距離は(ヒッパルコス衛星によって)93光年とされました。近傍天体であったのはその後の研究や解釈に有利な点と言えます。主星は晩期のB型主系列星で、伴星はK型の subgiant (準巨星) です。伴星はロッシュローブを満たしていて主星は満たしていません。これをコパールの分類で半分離型連星と言います。この構造が分かった時に、進化が早いハズの重い星が主系列で軽い方が subgiant (準巨星) なのか?という不思議な状況に驚きました。半分離型連星はほぼすべてが軽い subgiant (準巨星) が臨界ロッシュローブを満たしていて、満たしていない方は重い方が主系列星になっています。これは、軽い星は過去に主星より重く先に進化した事でロッシュローブを満たしてしまい以降は L1 ポイントから主星に質量を移動させて、現在のようなアベコベの関係になっているのでした。これを「アルゴルのパラドックス」と言います。


アルゴルは3重連星としても知られています。アルゴルAは3.39太陽質量, アルゴルBは0.77太陽質量で、この2星が食を起こします。この連星とアルゴルCが公転しています。アルゴルCは1.58太陽質量でAm型星です。アルゴルCは680日の周期で公転しています。アルゴルは近傍天体ですのでVLBI光学干渉望遠鏡によって撮像が可能です。この3重連星は内側のAB連星の公転と外側のC星の公転が逆行する関係にありました。

赤外 (H-band) 干渉計 CHARA で観測されたアルゴル (3重連星系) の姿。
Baron et al., 2012 より引用)


また、分光観測による視線速度の測定からアルゴルCは楕円軌道で離心率0.227とわかっています。伴星(アルゴルB)は彩層活動が活発で磁気活動によってループプロミネンスとコロナ放出が主星と密接なペアを作って、強力な電波・X線の放射が観測されます。

アルゴルの視線速度曲線(Kolbas et al., 2015 より引用)


アルゴルのO-C図を見ると約33年周期の変動があります。他に約188年のような長い周期変化もあります。アルゴルは多重連星なのかも知れません。アルゴルC, アルゴルD, アルゴルE, アルゴルF, アルゴルG, アルゴルHは1.9年から119.4年の間の周期を持っている、という研究もあるようです。

アルゴルの O-C 図。
(引用元: AN ATLAS OF O-C DIAGRAMS OF ECLIPSING BINARY STARS)。


主な参考資料

国立科学博物館HP『明るさが変わる星があるって本当ですか?』

植村誠, 『変光星・突発天体現象概論』(PDF)

永井和男 HP, 『アルゴルの近星点移動』

小平桂一 [編], 1980, 恒星社厚生閣, 『恒星の世界』pp. 223-225

Baron, F. et al., 2012, ApJ, 752, 20, “IMAGING THE ALGOL TRIPLE SYSTEM IN THE H BAND WITH THE CHARA INTERFEROMETER

Kolbas, V. et al., 2015, MNRAS, 451, 4150, “Spectroscopically resolving the Algol triple system