悪魔の星アルゴル

執筆者: K. Imamura

 秋の夜空は他の季節と比べると明るい星が少ないので、少し寂しい気もしますが、実は遠い宇宙の変化を体感することができる代表的な星がペルセウス座で輝いています。ペルセウス座は11月であれば夜8時くらいには北東の空に見え、約1.7等で輝くミルファクという星が目立ちます。そして、その星の近くに約2.1等で光るアルゴルと呼ばれる星があります (図1)。

 図1:ペルセウス座 (撮影: K. Imamura / Anan Sci. Center)

 アルゴルとはアラビア語で「悪魔」を意味し(ラス・アルグル「悪魔の頭」が由来)、星座絵には英雄ペルセウスとともに彼に退治された怪人メドゥーサの首が描かれ、その首の額部分がアルゴルとなります。古代アラビアの人々は砂漠の夜空で時々この星が約3等にまで減光して、時間が経つとまた元の明るさに戻っていくことに気がつきました。星の明るさが前触れもなく暗くなる現象を大変不気味に思い、「最も不幸で危険な星」とも呼んだそうです。

 図2:写真で捉えたアルゴルの明るさの変化 (撮影: K. Imamura / Anan Sci. Center)

 アルゴルの変光を科学的な視点で最初に確認したのは、1667年イタリアの天文学者(兼数学者)のモンタナリでした。この発見後、アルゴルの変光の科学的な原因について迫るには、18世紀後半のイギリスのジョン・グッドリック(ケ)[1764 – 1786] の登場を待たねばなりませんでした。当時、17歳であった彼はアルゴルを丹念に観測し、およそ2日半という周期で減光を繰り返すことをつきとめ、その結果からいくつかの仮説を提唱しました。その一つに『アルゴルの周りを公転するもう一つの天体によって隠され暗くなる』という仮説があり、これはいわゆる「食」と呼ばれる天文現象に他なりません。言い換えれば日食のようなものです。その後、観測技術の発展によってアルゴルはグッドリックの説明通り、二つの星から成る「連星」であることが明らかになっています。

 ※ 永井和男氏が執筆された「アルゴルの観測・研究」も併せてご覧ください。

 図3:アルゴルの食(明るさの変化)のイメージ (作図: K. Imamura / Anan Sci. Center)

 現代において、アルゴルはB型の主系列星(主星)とK型の準巨星(伴星)からなる連星系であることが知られています。軌道周期は約2.867328日とされ、主星が隠されると約2.1等から約3.4等まで暗くなる主極小が生じます。アルゴルの食は全行程が約10時間もありますので、実際には予報時刻の5時間くらい前から暗くなりはじめ、極小に達するとまた5時間くらいかけて元の明るさに戻ります。一方で、伴星が隠されるタイミング(副極小)もありますが、アルゴルの場合約0.1等しか暗くなりません。


参考資料

岡崎彰, 1994, 誠文堂新光社, 『奇妙な42の星たち』
岡崎彰, 1992, 丸善株式会社, 『星・物語』
藤井旭, 1975, 誠文堂新光社, 『星座ガイドブック 秋冬編』
Kaler, B. J., 2002, The Hundred Gratest Stars, Copernicus Books