新星とは

 新星と聞くと「新しい星の誕生のこと?」思うかもしれません。夜空に突然見慣れぬ明るい星が現れる現象なので、数百年前のヨーロッパの先人が新しい星を意味する “stella nova” とラテン語で名付けたのは当然であったと言えるでしょう。しかし現代の科学において、新星は新しい星の誕生としては語られていません。

 その正体は白色矮星赤色星から成る近接連星として知られています。このような天体は(激変星とも言い)、普段は暗くて大人しくしていますが、ある日突然、一気に明るさが増大するアウトバーストを起こすことがあります。今日、新星と呼ばれる天体は白色矮星の表面で起こる核爆発 (熱核暴走反応) によって、劇的に明るさが(1万~10万倍に)増大する現象だと考えられています(これを「新星爆発」とも言います)。

図1 新星爆発の例(へびつかい座RS星)。この新星の場合、爆発前は約11~10等の明るさだったが、新星爆発を起こすと極大で約4等に達した(写真撮影時は極大後の約5等台)。
図2 激変星の想像図 (by N. Imamura)。左側が赤色星、右側が白色矮星。白色矮星の周囲に描かれているのは降着円盤。

白色矮星の表面でナゼ爆発が?

 白色矮星は太陽くらいの質量を持つ恒星の成れの果て、いわば星の燃えカスです。そんな意気消沈した星の燃えカスの表面で、なぜ核爆発などという劇的な現象が突然起こるのでしょうか?まずは白色矮星の特徴について考えてみましょう。

 白色矮星は太陽くらいの質量を持つ恒星が、核融合反応に必要な燃料(主に水素)を使い切り、地球くらいのサイズにまで収縮してしまった天体です。ただサイズは小さいものの、平均密度は太陽と変わらず、とてつもなくギューギューに物質が詰まった高密度な状態になっていると考えらています。そのため、白色矮星の表面では1ccの水が1トンに達する強力な重力が働いており、このような特殊な環境が新星爆発を起こす鍵になります。しかし白色矮星は星の燃えカスゆえ、そもそも爆発を起こすための燃料がすでにありません。では爆発に必要な燃料はどこからやってくるのでしょうか?

 その答えは、白色矮星と一緒に連星系を成す赤色星です(図2参照)。激変星のような近接連星系は、伴星の赤色星から主星の白色矮星に向かって、水素ガスの流入(質量移動)が起こっていると考えられています。そして流入したガスは、白色矮星の周囲に降着円盤と呼ばれる土星の環のようなものを作ります。この降着円盤を通して白色矮星の表面に、核爆発に必要な燃料が少しずつ降り積もっていくのです。

 この降り積もったガスが臨界量に達すると (強力な表面重力と相まって)、いよいよ白色矮星の表面で核融合反応が起こります。太陽のような元気な恒星の場合、核融合反応によって生じる温度の上昇は、星が少し膨張することで(断熱膨張によって)、自らを冷却する機構が働き、核融合反応は安定して進行します。しかし、白色矮星は星の燃えカス。自らを冷却する機構を持っておらず、ひとたび反応が起こると、温度上昇に歯止めが利きません。つまり、核融合反応が暴走してしまい、新星爆発が起こるのです(ただし星全体が粉々に吹き飛ぶわけではありません)。

繰り返す新星爆発

 新星は爆発によって明るくなったあと、時間をかけておおよそ元の明るさに戻っていきます。ではまた、同じ天体で新星爆発が起こることはあるのでしょうか?答えは概ね YES です。ただし多くの場合、爆発の間隔は数千年~数万年かかると考えられています。

 その一方で、人類の歴史の中で2度以上の新星爆発が記録されている(爆発の間隔が短い)ものが幾つかあります。このような新星を反復新星 (recurrent nova) と言います(日本語では他にも再帰新星、回帰新星、再発新星という呼び方もある)。表1は天の川銀河内で確認されている反復新星となります。本キャンペーンの監視対象であるかんむり座T星 (T CrB) は過去2回の爆発が記録されているため、反復新星に分類されています。

表1 天の川銀河で確認されている10個の反復新星.
主としてSchaefer (2010) を参照し作成.ただし T CrB の t3 のみ Schaefer (2023) を参照.
星の名前爆発が確認された年爆発
周期
極大-極小の明るさ極大から3等暗くなる日数 (t3)
わし座CI星
(CI Aql)
1917、200083年?9.0-16.7等約32日
かんむり座T星
(T CrB)
1866、194680年?2.5-9.8等約5日
みなみのかんむり座V394星
(V394 CrA)
1949、198738年?7.2-18.4等約5.2日
じょうぎ座IM星
(IM Nor)
1920、200282年?8.5-18.3等 約80日
へびつかい座RS星
(RS Oph)
1898、1907、1933、1945、1958、1967、1985、2006、202114年?
(平均値)
4.8-11等 約14日
へびつかい座V2487星
(V2487 Oph)
1900、199898年?9.5-17.3等 約8日
らしんばん座T星
(T Pyx)
1890、1902、1920、1944,1966,201120年?
(平均値)
6.4-15.5等 約62日
いて座V3890星
(V3890 Sgr)
1962、1990、201929年?8.1-15.5等 約14日
さそり座U星
(U Sco)
1863、1906、1917、1936、1945、1969、
1979、1987、1999、2010、2022
約10年7.5-17.6等 約2.6日
さそり座V745星
(V745 Sco)
1937、1989、201425年?9.4-18.6等 約9日

新星の観測的特徴

明るさの変化

図3 模式的な新星の光度曲線.極大光度からの減光が遅い新星と速い新星を例示.

 新星の多くは、爆発によって明るさが急激に増大します。極大の光度に達したあとは、少しずつ暗くなっていきますが、新星によって減光が遅かったり、速かったりと、個性があります。このような個性を定量的に分類する方法があり、この分野では極大から2等または3等暗くなるのにかかる日数をよく用います(それぞれ t2 又は t3 という記号を使用)。この数値から表2, 3のような幾つかのスピード・クラスに分けられています。t2 による分類は1950年代に C. ペイン-ガポシュキン博士によって考案されました。一方で t3 による分類は変光星総合カタログ (GCVS) で採用されている手法です。

表2 t2を用いた新星の分類
t2分類名
10日以下very fast
11~25日fast
26~80日moderately fast
81~150日slow
151~250日very slow
表3 t3を用い新星の分類
t3分類名
100日未満fast (NA)
100日以上slow (NB)
~10年very slow (NC)

 では新星のスピード・クラスの違いは何が原因となり生じるのでしょうか。その答えは主に白色矮星の質量にあると考えられています。ここではあまり深入りしませんが、つまり白色矮星の質量が大きいと減光が速く、逆に質量が小さいと減光が遅くなるのです。この新星の普遍的な減光の法則に関する研究は、日本の天文学者加藤万里子博士と蜂巣泉博士によって理論的に明らかになりました(詳細は現代の天文学『恒星』の第6章を紐解くと良いでしょう)。

図4 7つに分類された新星の模式的な光度曲線.Strope et al. (2010) を参考に作図.

 ところで、新星の明るさの変化は単純に遅いのか、速いのかだけではなく、図4のように不思議な変光を示すものが大きく7種類あります(それぞれの特徴は以下のとおりです)。同じ新星でもなぜこのような違いが生まれるのでしょうか。新星観測の魅力は、このような個性を炙り出すことも一つとして挙げられるでしょう。

  • Sクラス(smooth)
     標準的な新星の光度変化で、滑らかに減光していく。
  • Pクラス(plateau)
     滑らかな減光が一時中断され、明るさが変化しない平坦な期間が存在する。
  • Dクラス(dust dip)
     減光の途中でダスト形成が起こり、爆発による輝きを覆い隠すことで、深い減光 (dip) が見られる。ダストが晴れると復光する。
  • Cクラス (cusp)
     滑らかな減光を示す途中で、少しずつ明るさが増大し2次極大を示す。
  • Oクラス(oscillations)
     減光途中で正弦波のように振動する変光を示す。
  • Fクラス(flat topped)
     極大の明るさがほぼ一定の状態で継続し、次第に滑らかな減光を示す。
  • Jクラス(jitter)
     滑らかに減光していく途中で、継続時間は短いけれど(鋭く)何度も明るさが増大する変光を示す。

スペクトル

図5 【上段】新星のスペクトルの例と、【下段】ベガのスペクトル.水素由来のHα、Hβ、Hγなど(バルマー系列)が、新星は幅の広い輝線として現れる.

 新星は明るさの変化もユニークですが、分光観測によって得られるスペクトルはさらに面白い世界を見せてくれます。図5のように、通常恒星の多くは水素などに由来する吸収線 (暗線) を示しますが、これとは逆に新星は輝線という特定の波長の強度が強く現れます。しかも輝線の幅が広く観測され、これは新星爆発によって吹き飛んだガスが、激しい速度で運動(膨張)していることを示しています(1000 km/秒 以上であることが多い)。

 なお、図5のような新星の輝線スペクトルは極大を過ぎたあたりでよく見られます。極大の前後では輝線に対して波長の短い側に吸収線が伴うようなスペクトル (P Cygni profile) が観測される場合もあります。さらに、新星が暗くなるにつれ、星雲などで見られるような酸素などの輝線 (禁制線) が現れるようになり、吹き飛んだガスの物理状態の変化を目の当たりにすることができます。

 ちなみに、天体のスペクトルについて学ぶさいは、粟野諭美氏が開発・製作された『天体スペクトル博物館』を参考にするとイメージが掴みやすいでしょう。

参考資料

 新星について詳しく知りたい方は(日本語の場合)、先人達が記した下記の文献や資料を紐解かれると良いでしょう。

一般向け

専門書